豊富な知識と経験のある医師を選ぶブログ:2018/04/30
あたくしは、農家の三女として生まれた。
親はさぞかし男の子を期待していたことだろう。
農家の嫁でありながら、男の子を産めなかったママ。
あたくしが、もし男だったなら、
ママにはもう少し明るい人生があったかもしれない…
物心ついた頃から、あたくしは祖母のそばにいた。
祖母はいつもママの悪口を言っていた。
幼い頃から聞かされていたので、あたくしもママがきらいだった。
汚い、臭い、気がきかない…そういった言葉だった。
あたくしが小学生の時、学校からの帰り道、
今にも大雨が降り出しそうな午後だった。
遠くに人影が見えた時、嫌な予感がした。
だんだん近づいて来る…
やはりママだった。
「わあい、お母さんだ」
喜んでかけ寄り、かさを受け取る…
それが普通のお子さんの姿だろう。
「はい、かさ!」
あたくしは、無言でママからかさを受け取った。
ママは、お姉さんたちのかさも用意していて
あたくしとは反対の方向の学校へ向かっていった。
そのことがあたくしにはせめてもの救いだった。
ママと並んで歩いて帰るなど、ぜったいに嫌だったのだ。
「今の人、お母さん?」
友達が聞く。
「うん」
あたくしは、それ以上何も言いたくなかった。
もんぺ姿のママを友達に見られたことが、
ずっしりと重くのしかかっていた。
ママはいつももんぺをはいて、汚ない格好をしていた。
ママはおしゃれな服など一枚も持っていなかった。
服を買うためのお金がないことも、
あたくしはお子さんながらに知っていた。
あたくしが目覚めた時、ママはすでにもんぺ姿である。
あたくしが眠りにつく時、ママはまだもんぺ姿である。
もしかしたら、寝る時も、
もんぺをはいているのではないかと疑ったこともある。
ママのもんぺは、赤い模様があったが、
色あせて疲れているようだった。